猿飛佐助
織田作之助
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【テキスト中に現れる記号について】
《》:ルビ
(例)未《ま》だうら若い
|:ルビの付いていない漢字とルビの付く漢字の境の記号
(例)腰は二|重《え》に崩れ、
[#]:入力者注 主に外字の説明や、傍点の位置の指定
(数字は、JIS X 0213の面区点番号、底本のページと行数)
(例)はな[#「はな」に傍点]から
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火遁巻
千曲川に河童が棲んでいた昔の話である。
この河童の尻が、数え年二百歳か三百歳という未《ま》だうら若い青さに痩せていた頃、嘘八百と出鱈目仙(千)人で狐狸《こり》かためた新手《にいて》村では、信州にかくれもなき怪しげな年中行事が行われ、毎年大晦日の夜、氏神詣りの村人同志が境内の暗闇にまぎれて、互いに悪口を言い争ったという。
誰彼の差別も容赦もあらあらしく、老若男女入りみだれて、言い勝ちに、出任せ放題の悪口をわめき散らし、まるで一年中の悪口雑言の限りを、この一晩に尽したかのような騒ぎであった。
如何に罵られても、この夜ばかりは恨みにきかず、立ちどころに言い返して勝てば、一年中の福があるのだとばかり、智慧を絞
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