て、双方名乗りが済むと、三好入道はいきなり長槍をしごいて、佐助の胸をめがけて、
「エイッ!」
と、突いたが、佐助はぱっと樹の上に飛び上って、笑いながら、
「おい、入道とやら。その坊主頭、打ち見たところ、ちと変哲が無さすぎて、寂しい故、枯木も山の賑いのコブを二つ三つ、坊主山のてっぺんに植えつけてくれようか。眼から出た火で山火事無用じゃ」
と、言ったかと思うと、ぱっと飛び降りざまに、三好入道の頭を鉄扇でしたたか敲くと、入道は眼をまわして、気絶してしまった。
見ていた幸村は、何思ったのか、佐助に呼びかけて、あたら幻妙の腕を持ちながら、山中に埋れるのは惜しいと仕官を口説くと元来自惚れの尠《すくな》くない佐助は脆《もろ》かった。
やがて、幸村より猿飛の姓を与えられた佐助は、
「今日よりは、鳥居峠を猿(去る)飛佐助だ」
と、駄洒落を飛ばしながら、いそいそと幸村主従のあとについて、上田の城にはいった。
が、佐助はさすがに白雲師匠の教訓を忘れなかったのか、鳥人の術なぞ知った顔は一つも見せず、専らアバタの穴だらけの醜い顔を振りまわして行くと、案の定人に好かれた。
その頃、同じ城内に、悪病
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