しく余裕のない現代に生活している若い人たちが聞いたら、そこには昼と夜ほどの懸隔《けんかく》を見出す事であろうと思われる位だった。
[#地から1字上げ](大正十二年四月『七星』第一号)
五
私の今住んでいる向島《むこうじま》一帯の土地は、昔は石が少かったそうである。それと反対に向河岸《むこうがし》の橋場から今戸《いまど》辺には、石浜という名が残っている位に石が多かった。で、江戸もずっと以前の事であろうが、石浜に住んでいる人たちは、自分の腕の力を試すという意味も含ませて、向島の方へ石を投げてよこしたという伝説がある。その代りという訳でもあるまいが、この辺の土地は今でも一間も掘り下げると、粘土が層をなしていて、それが即ち今戸焼には好適の材料となるので、つまり暗黙のうちに物々交換をする訳なのである。
この石投げということは、俳諧の季題にある印地打《いんじうち》ということなので、この風習は遠い昔に朝鮮から伝来したものらしく、今でも朝鮮では行われているそうだが、それが五月の行事となったのも、つまりは男子の節句という、勇ましいというよりもむしろ荒々しい気風にふさわしい遊戯である
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