《あかる》いものであったが、困ることには「ほや」などが壊《こわ》れても、部分的な破損を補う事が不可能で、全部新規に買入れねばならない不便があった。石油なども口を封蝋《ふうろう》で缶《かん》してある大きな罎入《かめいり》を一缶《ひとかん》ずつ購《もと》めねばならなかった。
◇
そんな具合でランプを使用する家とては、ほんの油町に一軒、人形町に一軒、日本橋に一軒という稀《まれ》なものであったが、それが瓦斯燈《ガスとう》に変り、電燈に移って今日では五十|燭光《しょっこう》でもまだ暗いというような時代になって、ランプさえもよほどの山間僻地《さんかんへきち》でも全く見られない、時世の飛躍的な推移は驚愕《きょうがく》の外はない。瓦斯の入来したのは明治十三、四年の頃で、当時|吉原《よしわら》の金瓶大黒という女郎屋の主人が、東京のものを一手に引受けていた時があった。昔のものは花瓦斯といって焔の上に何も蔽《おお》わず、マントルをかけたのは後年である。
◇
江戸から東京への移り変りは全く躍進的で、総てが全く隔世《かくせい》の転換をしている。この向島も全く昔の俤《おもかげ》は失
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