戸札を叩いて「ヤレ突けそれ突け八文じゃあ安いものじゃ」と怒鳴っている。八文払って入って見ると、看板の裲襠《しかけ》を着けている女が腰をかけている、その傍《かたわら》には三尺ばかりの竹の棒の先《さ》きが桃色の絹で包んであるのがある。「ヤレ突けそれ突け」というのは、その棒で突けというのです。乱暴なものだ。また最も流行ったのは油壺に胡麻油か何かを入れて、中に大判小判を沈ましてあって、いくばくか金を出して塗箸《ぬりばし》で大判小判を取上げるので、取上げる事が出来れば、大判小判が貰《もら》えるという興行物がありました。また戊辰《ぼしん》戦争の後には、世の中が惨忍な事を好んだから、仕掛物《しかけもの》と称した怪談見世物が大流行で、小屋の内へ入ると薄暗くしてあって、人が俯向《うつむ》いてる。見物が前を通ると仕掛けで首を上げる、怨《うら》めしそうな顔をして、片手には短刀を以《も》って咽喉《のど》を突いてる、血がポタポタ滴《た》れそうな仕掛になっている。この種のものは色々の際物《きわもの》――当時の出来事などが仕組まれてありました。が、私の記憶しているのでは、何でも心中ものが多かった。こんなのを薄暗い処
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