、零落者と見せかけてのイカモノ師が多かったなどは、他の時代には見られぬ詐偽《さぎ》商人です。また「アラボシ」といって、新らしいものばかりの露店がある。これは性《しょう》が悪くて、客が立止って一度価を聞こうものなら、金輪際《こんりんざい》素通りの聞放しをさせない、袂《たもと》を握って客が値をつけるまで離さない。買うつもりで価を聞いたのだろうから、いくばくか値を附けろ、といったような剣幕で、二円も三円もとの云価《いいね》を二十銭三十銭にも附けられないという処を見込んだ悪商人が多く「アラボシ」にあった。今夜店の植木屋などの、法外な事をいうのは、これらアラボシ商人の余風なのでしょう。一体がこういう風に、江戸の人は田舎者を馬鹿に為切《しき》っていた。江戸ッ子でないものは人でないような扱いをしていたのは、一方からいうと、江戸が東京となって、地方人に蹂躙《じゅうりん》せられた、本来江戸児とは比較にもならない頓馬《とんま》な地方人などに、江戸を奪われたという敵愾心《てきがいしん》が、江戸ッ子の考えに瞑々《めいめい》の中《うち》にあったので、地方人を敵視するような気風もあったようだ。
散髪《ざんぱつ》
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