釣られるのです。この辺では屋台店がまた盛んで、卯之花鮨《からずし》とか、おでんとか、何でも八文で後には百文になったです。この両国の雑踏の間に、下駄脱しや、羽織脱しがあった。踵《かかと》をちょっと突くものですから、足を上げて見ている間に、下駄をカッ払ったりする奴があった。それから露店のイカサマ道具屋の罪の深いやり方のには、こういうのがある。これはちょっと淋《さび》しい人通りのまばらな、深川の御船蔵前とか、浅草の本願寺の地内とかいう所へ、小さい菰座《こもざ》を拡げて、珊瑚珠《さんごじゅ》、銀簪《ぎんかん》、銀煙管《ぎんギセル》なんかを、一つ二つずつ置いて、羊羹《ようかん》色した紋付《もんつき》を羽織って、ちょっと容体《ようだい》ぶったのがチョコンと坐っている。女や田舎ものらが通りかかると、先に男がいくばくかに値をつけて、わざと立去ってしまうと、後で紋付のが「時が時ならこんな珠を二円や三円で売るのじゃないにアア/\」とか何とか述懐して、溜呼吸《ためいき》をついている。女客は立止って珠を見て、幾分かで買うニ、イカサマ師はそのまま一つ処にはいない、という風に、維新の際の武家高家の零落流行に連れて
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