に深い同情を寄せて泣いてくれた柔しサを恋したのだ。そして自分は恋を恋する人に過ぎないと知った。実に大友はお正の恋を知ると同時に自分のお正に対する情の意味を初めて自覚したのである。
暫時無言で二人は歩いていたが、大友は斯《か》く感じると、言い難き哀情《かなしみ》が胸を衝いて来る。
「然しね、お正さん、貴女も一旦嫁いだからには惑わないで一生を送った方が可《よろ》しいと僕は思います。凡《すべ》て女の惑いからいろんな混雑や悲嘆《なげき》が出て来るものです。現に僕の事でも彼女《あのおんな》が惑うたからでしょう……」
お正はうつ向いたまま無言。
「それで今夜は運よくお互に会うことが出来ましたが、最早《もう》二度とは会えませんから言います、貴女も身体も大切にして幾久しく無事でお暮しになるように……」
お正は袖を眼に当て、
「何故会えないのでしょうか。」
「会えないものと思った方が可《い》いだろうと思います。」
「それでは貴下は最早会いたいとは思っては下さらないのですか。」
「決して其様《そんな》ことはありません。僕はこれまで彼女《あのおんな》に会いたいなど夢にも思わなくなりましたが、貴女には会
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