」に傍点]な言葉とを半混ぜに使うようになったものに違いない。
 七番の客の名刺には大津弁二郎《おおつべんじろう》とある、別に何の肩書きもない。六番の客の名刺には秋山松之助とあって、これも肩書きがない。
 大津とはすなわち日が暮れて着いた洋服の男である。やせ形《がた》な、すらりとして色の白いところは相手の秋山とはまるで違っている。秋山は二十五か六という年輩で、丸く肥えて赤ら顔で、目元に愛嬌《あいきょう》があって、いつもにこにこしているらしい。大津は無名の文学者で、秋山は無名の画家で不思議にも同種類の青年がこの田舎《いなか》の旅宿《はたごや》で落ち合ったのであった。
『もう寝ようかねエ。随分|悪口《あっこう》も言いつくしたようだ。』
 美術論から文学論から宗教論まで二人はかなり勝手にしゃべって、現今《いま》の文学者や画家の大家を手ひどく批評して十一時が打ったのに気が付かなかったのである。
『まだいいさ。どうせ明日《あした》はだめでしょうから夜通し話したってかまわないさ。』
 画家の秋山はにこにこしながら言った。
『しかし何時《いくじ》でしょう。』
と大津は投げ出してあった時計を見て、
『お
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