がこの大噴火口はいつしか五穀実る数千町歩の田園とかわって村落幾個の樹林や麦畑が今しも斜陽静かに輝いている。僕らがその夜、疲れた足を踏みのばして罪のない夢を結ぶを楽しんでいる宮地《みやじ》という宿駅もこの窪地にあるのである。
『いっそのこと山上の小屋に一泊して噴火の夜の光景を見ようかという説も二人の間に出たが、先が急がれるのでいよいよ山を下ることに決めて宮地を指《さ》して下《お》りた。下《くだ》りは登りよりかずっと勾配《こうばい》が緩《ゆる》やかで、山の尾や谷間の枯れ草の間を蛇《へび》のようにうねっている路をたどって急ぐと、村に近づくにつれて枯れ草を着けた馬をいくつか逐《お》いこした。あたりを見るとかしこここの山の尾の小路《こみち》をのどかな鈴の音夕陽を帯びて人馬いくつとなく麓《ふもと》をさして帰りゆくのが数えられる、馬はどれもみな枯れ草を着けている。麓はじきそこに見えていても容易には村へ出ないので、日は暮れかかるし僕らは大急ぎに急いでしまいには走って下りた。
『村に出た時はもう日が暮れて夕闇《ゆうやみ》ほのぐらいころであった。村の夕暮れのにぎわい[#「にぎわい」に傍点]は格別で、壮年|
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