に見える旧噴火口の断崖と同じような色に染まった。円錐形《えんすいけい》にそびえて高く群峰を抜く九重嶺の裾野《すその》の高原数里の枯れ草が一面に夕陽《せきよう》を帯び、空気が水のように澄んでいるので人馬の行くのも見えそうである。天地|寥廓《りょうかく》、しかも足もとではすさまじい響きをして白煙|濛々《もうもう》と立ちのぼりまっすぐに空を衝《つ》き急に折れて高嶽《たかたけ》を掠《かす》め天の一方に消えてしまう。壮といわんか美といわんか惨《さん》といわんか、僕らは黙ったまま一|言《ごん》も出さないでしばらく石像のように立っていた。この時天地|悠々《ゆうゆう》の感、人間存在の不思議の念などが心の底からわいて来るのは自然のことだろうと思う。
『ところでもっとも僕らの感を惹《ひ》いたものは九重嶺と阿蘇山との間の一大窪地《いちだいくぼち》であった。これはかねて世界最大の噴火口の旧跡と聞いていたがなるほど、九重嶺の高原が急に頽《おち》こんでいて数里にわたる絶壁がこの窪地の西を回《めぐ》っているのが眼下によく見える。男体山麓《なんたいさんろく》の噴火口は明媚幽邃《めいびゆうすい》の中禅寺湖と変わっている
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