訊《たず》ねた。
「どうしてか知らんが今度東京から帰って来てからというものは、毎日酒ばかり呑んでいて、今まで御嬢|様《さん》にはあんなに優しかった老先生がこの二三日《にさんち》はちょっとしたことにも大きな声をして怒鳴るようにならしゃっただ、私《わし》も手の着けようがないので困っていたとこで御座りますよ」さも情なそうに言って、
「あの様子では最早《もう》先が永くは有りますめえ、不吉なことを言うようじゃが……」と倉蔵は眼を瞬《しばだ》たいた。この時老先生の声で
「倉蔵! 倉蔵!」と呼ぶ声が座敷の縁先でした。倉蔵は言葉を早めて、益々小さな声で
「然し晩になると大概校長さんが来ますからその時だけは幾干《いくら》か気嫌《きげん》が宜《え》えだが校長さんも感心に如何《いくら》なんと言われても逆からわないで温和《おとなしゅ》うしているもんだから何時《いつ》か老先生も少しは機嫌が可くなるだ……」
「倉蔵! 倉蔵は居らんか!」と又も老先生の太い声が響いた。
倉蔵は目礼したまま大急ぎで庭の方へ廻《ま》わった。村長は腕を組んで暫時《しばら》く考えていたが歎息《ためいき》をして、自分の家の方へ引返《ひっかえ
前へ
次へ
全40ページ中23ページ目
小説の先頭へ
文字数選び直し
国木田 独歩 の一覧に戻る
作家の選択に戻る
◆作家・作品検索◆
トップページ
登録
ご利用方法
ログイン
携帯用掲示板レンタル
携帯キャッシング