ながい》を為《せ》ずに帰《かえ》って了った。
その後五日経って、村長は午後二時頃富岡老人を訪う積りでその門まで来た。そうすると先生の声で
「馬鹿者! 貴様《きさま》まで大馬鹿になったか? 何が可笑《おか》しいのだ、大馬鹿者!」
と例の大声で罵《ののし》るのが手に取るように聞えた。村長は驚いて誰が叱咤《しか》られるのかとそのまま足を停《とど》めて聞耳を聳《た》てていると、内から老僕倉蔵がそっと出て来た。
「オイ倉蔵、誰だな今怒鳴られているのは?」村長は私語《ささや》いた。倉蔵は手を以てこれを止めて、村長の耳の傍《そば》に口をつけて、
「お嬢様が叱咤《しか》られているのだ」
「エッお梅|嬢《さん》が※[#疑問符感嘆符、1−8−77]」と村長は眼を開瞳《みは》った。その筈《はず》で、梅子は殆《ほとん》ど富岡老人に従来《これまで》一言《ひとこと》たりとも叱咤《しから》れたことはない。梅子に対してはさすがの老先生も全然《まるで》子供のようで、その父子《ふし》の間の如何《いか》にも平穏にして情愛こまかなるを見る時は富岡先生実に別人のようだと誰しも思っていた位。
「マアどうして?」村長は驚ろいて
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