《どこ》へも寄らんでずんずん帰《もど》って来た」
「それは無益《つまり》ませんでしたね、折角おいでになって」と校長はおずおずしながら言った。
先生の気焔《きえん》は益々《ますます》昂《たか》まって、例の昔日譚《むかしばなし》が出て、今の侯伯子男を片端《かたっぱし》から罵倒《ばとう》し初めたが、村長は折を見て辞し去った。校長は先生が喋舌《しゃべ》り疲《くた》ぶれ酔《え》い倒れるまで辛棒して気※[#「陷のつくり+炎」、第3水準1−87−64]《きえん》の的となっていた。帰える時梅子は玄関まで送って出たが校長何となくにこつ[#「にこつ」に傍点]いていた。田甫道に出るや、彼はこの数日《すじつ》の重荷が急に軽くなったかのように、いそいそと路《みち》を歩いたが、我家に着くまで殆《ほとん》ど路をどう来たのか解らなんだ。
三
その翌々日の事であった、東京なる高山法学士から一|通《つう》の書状《てがみ》が村長の許《もと》に届いた。その文意は次の如くである。
富岡先生が折角上京されたと思うと突然帰国された、それに就《つい》て自分は大に胸を痛めている、先生は相変らず偏執《ひねくれ》
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