ておられる。我々は勿論《もちろん》先輩諸氏も決して先生を冷遇するのではないが先生の方で勝手にそう決定《きめ》て怒っておられる、実に困った者で手の着けようがない。実は自分は梅子|嬢《さん》を貰《もら》いたいと兼ねて思っていたのであるから、井下伯に頼んで梅子|嬢《さん》だけ滞《と》めて置いて後《あと》から交渉して貰う積りでいた、然るに先生の突然の帰国でその計画も画餅《がべい》になったが残念でならぬ。自分は容貌《ようぼう》の上のみで梅子|嬢《さん》を思うているのでない、御存知の通り実に近頃の若い女子には稀《まれ》に見るところの美しい性質を以《もっ》ておられる、自分は随分東京で種々の令嬢方を見たが梅子|嬢《さん》ほどの癖のない、すらりとした、すなおなる女を見たことはない。女子の特質とも言うべき柔和な穏やかな何処《どこ》までも優《やさ》しいところを梅子|嬢《さん》は十二分に有《もっ》ておられる。これには貴所《あなた》も御同感と信ずる。もし梅子|嬢《さん》の欠点を言えば剛という分子が少ない事であろう、しかし完全無欠の人間を求めるのは求める方が愚である、女子としては梅子|嬢《さん》の如き寧《むし》ろ
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