や着かぬに問いかけた。
「知っているとも、先刻《さっき》倉蔵が先生の手紙を持って来たが、不在中家の事を托《たの》むと書いてあった」と村長は夜具から頭ばかり出して話している。大津の婚礼に招ねかれたが風邪《かぜ》をひいて出ることが出来ず、寝ていたのである。
「どういう理由《わけ》で急に上京したのだろう?」
「そんな理由《わけ》は手紙に書いてなかったが、大概想像が着くじゃアないか」と村長は微笑を帯びて細川の顔をじろじろ見ながら言った。彼は細川が梅子に人知れず思を焦がしていることを観破《みぬい》ていたのである。
「私《わし》には解《げ》せんなア」と校長は嘆息《ためいき》を吐《つ》いた。
「解せるじゃアないか、大津が黒田のお玉さんと結婚しただろう、富岡先生少し当《あて》が外《はず》れたのサ、其処《そこ》で宜《よろ》しい此処《こっち》にもその積《つもり》があるとお梅|嬢《さん》を連れて東京へ行って江藤侯や井下《いのした》伯を押廻わしてオイ井下、娘を頼む位なことだろうヨ」
「そうかしらん?」
「そうとも! それに先生は平常《ふだん》から高山々々と讃《ほ》めちぎっていたから多分井下伯に言ってお梅|嬢《
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