ったらしい。
「マア先生は何にも知らないのかね?」
「乃公《わし》が何を知るものか、今日釣に行っていたが老先生は何にも言わんからの」
「そうかの?」と倉蔵は不審な顔色《かおつき》をして煙草を吸い初めた。
「貴公《おまえ》理由《わけ》を知らんかね?」
「私《わし》唯《た》だ倉蔵これを急いで村長の処《とこ》へ持て行けと命令《いいつか》りましたからその手紙を村長さん処《とこ》へ持て行って帰宅《かえっ》てみると最早《もう》仕度《したく》が出来ていて、私《わし》直ぐ停車場まで送って今帰った処《とこ》じゃがの、何知るもんかヨ」
「フーン」と校長考えていたが「何日《いつ》頃|帰国《かえ》ると言われた?」
「老先生は十日ばかりしたら帰る、それも能《よ》くは解らんちゅうて……」
「そうか……」と校長は嘆息《ためいき》をしていたが、
「また来る」と細川は突然富岡を出て、その足で直ぐ村長を訪うた。村長は四十|何歳《いくつ》という分別盛りの男で村には非常な信用があり財産もあり、校長は何時《いつ》もこの人を相談相手にしているのである。
「貴公《あんた》富岡先生が東京へ行った事を知っているか」と校長細川は坐に着く
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