ありがちな空想を描くけれども、計画を立ててこれを実行する上については少年の時から今日に至るまで、すこしも変わらず、一定の順序を立てて一歩一歩と着々実行してついに目的どおりに成就《じょうじゅ》するのである。むろんこれは西国立志編の感化でもあろう、けれども一つには彼の性情が祖父に似ているからだと思われる。彼の祖父の非凡な人であったことを今ここで詳しく話すことはできないが、その一つをいえば真書太閤記《しんしょたいこうき》三百巻を写すに十年計画を立ててついにみごと写しおわったことがある。僕も桂の家でこれを実見したが今でもその気根《きこん》のおおいなるに驚いている。正作はたしかにこの祖父の血を受けたに違いない。もしくはこの祖父の感化を受けただろうと思う。
途上種々の話で吾々二人は夕暮に帰宅し、その後僕は毎日のように桂に遇って互いに将来の大望《アンビション》を語りあった。冬期休暇《ふゆやすみ》が終りいよいよ僕は中学校の寄宿舎に帰るべく故郷を出立する前の晩、正作が訪ねてきた。そしていうには今度会うのは東京だろう。三四年は帰郷しないつもりだからと。僕もそのつもりで正作に離別《わかれ》を告げた。
明
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