ンク』を讀《よみ》さして思《おも》はずボズさんの事《こと》を考《かんが》へ出《だ》し、其《その》以前《いぜん》二人《ふたり》が溪流《たにがは》の奧深《おくふか》く泝《さかのぼ》つて「やまめ」を釣《つ》つた事《こと》など、それからそれへと考《かんが》へると堪《たま》らなくなつて來《き》た。實《じつ》は今度《こんど》來《き》て見《み》ると、ボズさんが居《ゐ》ない。昨年《きよねん》田之浦《たのうら》の本家《うち》へ歸《かへ》つて亡《なく》なつたとの事《こと》である。
事實《じゝつ》、此世《このよ》に亡《な》い人《ひと》かも知《し》れないが、僕《ぼく》の眼《め》にはあり/\と見《み》える、菅笠《すげがさ》を冠《かぶ》つた老爺《らうや》のボズさんが細雨《さいう》の中《うち》に立《たつ》て居《ゐ》る。
『病氣《びやうき》に良《よ》くない、』『雨《あめ》が降《ふ》りさうですから』など宿《やど》の者《もの》がとめるのも聞《き》かず、僕《ぼく》は竿《さを》を持《もつ》て出掛《でか》けた。人家《じんか》を離《はな》れて四五|丁《ちやう》も泝《さかのぼ》ると既《すで》に路《みち》もなければ畑《はたけ》もな
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