く又《また》一尾《いつぴき》上《あ》げるとボズさん、
『旦那《だんな》はお上手《じやうず》だ。』
『だめ[#「だめ」に傍点]だよ。』
『イヤさうでない。』
『これでも上手《じやうず》の中《うち》かね。』
『此《この》温泉《をんせん》に來《く》るお客《きやく》さんの中《うち》じア旦那《だんな》が一|等《とう》だ。』と大《おほ》げさ[#「げさ」に傍点]に贊《ほ》めそやす。
『何《なに》しろ道具《だうぐ》が可《い》い。』と言《い》はれたので僕《ぼく》は思《おも》はず噴飯《ふき》だし、
『それじア道具《だうぐ》が釣《つ》るのだ、ハ、ハ、……』
 ボズさん少《すこ》しく狼狽《まごつ》いて、
『イヤ其《それ》は誰《だれ》だつて道具《だうぐ》に由《よ》ります。如何《いく》ら上手《じやうず》でも道具《だうぐ》が惡《わる》いと十|尾《ぴき》釣《つ》れるところは五|尾《ひき》も釣《つ》れません。』
 それから二人《ふたり》種々《いろ/\》の談話《はなし》をして居《を》る中《うち》に懇意《こんい》になり、ボズさんが遠慮《ゑんりよ》なく言《い》ふ處《ところ》によると僕《ぼく》の發見《みつけ》た場所《ばしよ》は
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