釣《つ》れないでも半日位《はんにちぐらゐ》は辛棒《しんぼう》が出來《でき》ると思《おも》つた。處《ところ》が僕《ぼく》が釣初《つりはじ》めると間《ま》もなく後背《うしろ》から『釣《つ》れますか』と唐突《だしぬけ》に聲《こゑ》を掛《か》けた者《もの》がある。
振《ふ》り向《む》くと、それがボズさんと後《のち》に知《し》つた老爺《ぢいさん》であつた。七十|近《ちか》い、背《せ》は低《ひく》いが骨太《ほねぶと》の老人《らうじん》で矢張《やはり》釣竿《つりざを》を持《もつ》て居《ゐ》る。
『今初《いまはじ》めた計《ばか》りです。』と言《い》ふ中《うち》、浮木《うき》がグイと沈《しづ》んだから合《あは》すと、餌釣《ゑづり》としては、中々《なか/\》大《おほき》いのが上《あが》つた。
『此處《こゝ》は可《か》なり釣《つ》れます。』と老爺《ぢいさん》は僕《ぼく》の直《す》ぐ傍《そば》に腰《こし》を下《おろ》して煙草《たばこ》を喫《す》ひだした。けれど一人《ひとり》が竿《さを》を出《だ》し得《う》る丈《だけ》の場處《ばしよ》だからボズさんは唯《たゞ》見物《けんぶつ》をして居《ゐ》た。
間《ま》もな
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