嬌のある小躯《こがら》の女である。
「用というのは大概解って居ますが、色々話もあるから一寸お上んなさいよ。」
「そう、あの局の帰りに来ると宜《いゝ》んだけど、家に急ぐ用が有ったもんだから……」
といい乍ら二人は中に入《はい》った。
入ると直ぐ下駄直しの仕事場で、脇の方に狭い階段《はしごだん》が付ていて、仕事場と奥とは障子で仕|切《きっ》てある。其障子が一枚|開《あ》かっていたが薄闇くって能く内が見えない。
「遅く来《あが》って御気毒様、」と来た少女は軽《かろ》く言った、奥に向《むかっ》て。
「どう致しまして、」と奥で嗄《しわがれ》た声がして、続《つゞい》て咳嗽《せき》がして、火鉢の縁をたたく煙管《きせる》の音が重く響いた。
「この乱暮さを御覧なさい、座る所もないのよ。」と主人《あるじ》の少女はみしみしと音のする、急な階段を先に立《たっ》て陞《のぼ》って、
「何卒《どう》ぞ此処へでも御座《おす》わんなさいな。」
と其処らの物を片付けにかかる。
「すこし頼まれた仕事を急いでいますからね、……源《げん》ちゃん、お床を少し寄せますよ。」
「いいのよ、其様《そう》してお置きなさいよ、源ちゃ
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