たいって……。」
「まだ小供ですもの、ねえ」とお富は立《たっ》て二人は暗い階段《はしごだん》を危なそうに下《お》り、お秀も一所に戸外《そと》へ出た。月は稍や西に傾いた。夜は森《しん》と更けて居《い》る。
「そこまで送りましょう。」
「宜いのよ、其処へ出ると未だ人通りが沢山あるから」とお富は笑って、
「左様なら、源ちゃんお大事に、」と去《ゆ》きかける。
「御壕の処まで送りましょうよ、」とお秀は関《かま》わず同伴《いっしょ》に来る。二人の少女《むすめ》の影は、薄暗いぬけろじの中に消えた。
ぬけろじの中程が恰度、麺包屋《ぱんや》の裏になっていて、今二人が通りかけると、戸が少し開《あい》て居て、内で麺包を製造《つく》っている処が能く見える。其|焼《やき》たての香《こうば》しい香《におい》が戸外《そと》までぷんぷんする。其焼く手際が見ていて面白いほどの上手である。二人は一寸《ちょ》と立《たっ》てみていた、
「お美味《いし》そうねエ」とお富は笑って言った。
「明朝のを今|製造《こしら》えるのでしょうねエ」とお秀も笑うて行こうとする、
「ちょっと御待ちなさいよ」とお富は止めて、戸外《そと》から、
前へ
次へ
全20ページ中17ページ目
小説の先頭へ
文字数選び直し
国木田 独歩 の一覧に戻る
作家の選択に戻る
◆作家・作品検索◆
トップページ
登録
ご利用方法
ログイン
携帯用掲示板レンタル
携帯キャッシング