とが何で出来ましょうか。祖母さんに、どんな事が有ッても其様《そん》な真似は私はしない、私のやれる丈けやって妹と弟の行末を見届けるから心配して下さるなと言切って其時あんまり口惜かったから泣きましたのよ。それからね寧《いっそ》のこと針仕事の方が宜いかと思って暫時《しばらく》局を欠勤《やす》んでやって見たのですよ。しかし此頃に成って見ると矢張仕事ばかりじゃア、有る時や無い時が有って結極《つまり》が左程の事もないようだし、それに家にばかりいるとツイ妹や弟の世話が余計焼きたくなって思わず其方《それ》に時間を取られるし……ですから矢張半日ずつ、局に出ることに仕ようかとも思って居たところなんですよ。」
「そしてお梅さんはどうなすって?」とお富は不審《ふしぎ》そうに尋ねた。
「ですから、今の処、とても私一人の腕で三人はやりきれない! 小石川の方へも左迄は請求《たのま》れないもんですから、お梅だけは奉公に出すことにして、丁度|一昨々日《さきおととい》か先方《むこう》へ行きましたの。」
「まあ何処へなの?」
「じき其処なの、日蔭町《ひかげちょう》の古着屋なの。」
「おさんどんですか。」
「ハア。」
「まあ
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