も涙含んだ。
「祖母さんのことだから他の人には言えないけれど……そら先達貴姉の来ていらしゃった時、祖母さんがあんな妙なことを言ったでしょう。処が十日ばかり前に小石川《こいしがわ》から来て私に妾になれと言わないばかりなのよ、あのお前の思案《かんがえ》一つでお梅や源ちゃんにも衣服《きもの》が着せてやられて、甘味《おいしい》ものが食べさされるッて……」
「それで妾になれって?」お富は眼※[#「目+匡」、第3水準1−88−81]《まぶち》を袖で摩って丸い眼を大きくして言った。
「否《いゝ》エ妾になれって明白《はっきり》とは言わないけれど、妾々ッて世間で大変悪く言うが芸者なんかと比較《くらべ》ると幾何《いくら》いいか知れない、一人の男を旦那にするのだからって……まあ何という言葉でしょう……私は口惜くって堪りませんでしたの。矢張身を売るのは同じことだと言いますとね、祖母さんや同胞《きょうだい》のために身を売るのが何が悪いッて……」
「まア其様《そんな》なことを!」
「実《じつ》、私も困り切《きっ》ているに違いないけエど、いくら零落《おちぶれ》ても妾になぞ成る気はありませんよ私には。そんな浅間しいこ
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