ある。この有様でもお秀は妾になったのだろうか、女の節操《みさお》を売《うっ》てまで金銭が欲《ほし》い者が如何して如此《こん》な貧乏《まず》しい有様だろうか。
「江藤さん、私は決して其様《そん》なことは真実《ほんと》にしないのよ。しかし皆なが色々《いろん》なことを言っていますから或《もしや》と思ったの。怒っちゃ宜《いけ》ないことよ、」とお富の声も震えて左も気の毒そうに言った。
「否《いゝ》エ、怒るどころか、貴姉《あなた》宜く来て下すって真実《ほんと》に嬉れしう御座います、局の人が色々なことを言っているのは薄々知っていましたが、私は無理はないと思いますわ……」と、
さも悲しげにお秀は言って、ほっと嘆息を吐いた。
「何故《なぜ》。私は口惜《くやし》いことよ、よく解りもしないことを左も見て来たように言いふらしてさ。」
「私だって口惜いと思わないことはないけエど、あんな人達が彼是れ言うのも尤ですよ、貴姉……祖母《おばあ》さんね…」
とお秀は口籠《くちごも》った、そしてじっとお富の顔を見た目は湿んでいた。
「祖母さんが何とか言ったのでしょう……真実《ほんと》に貴姉はお可哀そうだよ……」とお富の眼
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