生《しよせい》は居《ゐ》なくなる! と僕《ぼく》は思《おも》つた時《とき》、思《おも》はず足《あし》を止《とゞ》めた。頭《あたま》の上《うへ》の眞黒《まつくろ》に繁《しげ》つた枝《えだ》から水《みづ》がぼた/\落《お》ちる、墓穴《はかあな》のやうな溪底《たにそこ》では水《みづ》の激《げき》して流《なが》れる音《おと》が悽《すご》く響《ひゞ》く。僕《ぼく》は身《み》の髮《け》のよだつを感《かん》じた。
死人《しにん》のやうな顏《かほ》をして僕《ぼく》の歸《かへ》つて來《き》たのを見《み》て、宿《やど》の者《もの》は如何《どん》なに驚《おどろ》いたらう。其驚《そのおどろき》よりも僕《ぼく》の驚《おどろ》いたのは此日《このひ》お絹《きぬ》が來《き》たが、午後《ごゝ》又《また》實家《じつか》へ歸《かへ》つたとの事《こと》である。
其夜《そのよ》から僕《ぼく》は熱《ねつ》が出《で》て今日《けふ》で三日《みつか》になるが未《ま》だ快然《はつきり》しない。山《やま》に登《のぼ》つて風邪《かぜ》を引《ひ》いたのであらう。
君《きみ》よ、君《きみ》は今《いま》の時文《じぶん》評論家《ひやうろんか》
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