でないから、此《この》三日《みつか》の間《あひだ》、床《とこ》の中《なか》に呻吟《しんぎん》して居《ゐ》た時《とき》考《かんが》へたことを聞《き》いて呉《く》れるだらう。
 戀《こひ》は力《ちから》である、人《ひと》の抵抗《ていかう》することの出來《でき》ない力《ちから》である。此力《このちから》を認識《にんしき》せず、又《また》此力《このちから》を壓《おさ》へ得《う》ると思《おも》ふ人《ひと》は、未《ま》だ此力《このちから》に觸《ふ》れなかつた人《ひと》である。其《その》證據《しようこ》には曾《かつ》て戀《こひ》の爲《た》めに苦《くるし》み悶《もだ》えた人《ひと》も、時《とき》經《た》つて、普通《ふつう》の人《ひと》となる時《とき》は、何故《なにゆゑ》に彼時《あのとき》自分《じぶん》が戀《こひ》の爲《た》めに斯《か》くまで苦悶《くもん》したかを、自分《じぶん》で疑《うた》がう者《もの》である。則《すなは》ち彼《かれ》は戀《こひ》の力《ちから》に觸《ふ》れて居《ゐ》ないからである。同《おな》じ人《ひと》ですら其通《そのとほ》り、況《いは》んや曾《かつ》て戀《こひ》の力《ちから》に觸《ふ
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