に倚《よ》つて居《ゐ》た。この時《とき》、戀《こひ》もなければ失戀《しつれん》もない、たゞ悽愴《せいさう》の感《かん》に堪《た》えず、我生《わがせい》の孤獨《こどく》を泣《な》かざるを得《え》なかつた。
 歸路《かへり》に眞闇《まつくら》に繁《しげ》つた森《もり》の中《なか》を通《とほ》る時《とき》、僕《ぼく》は斯《こ》んな事《こと》を思《おも》ひながら歩《あ》るいた、若《も》し僕《ぼく》が足《あし》を蹈《ふ》み滑《す》べらして此溪《このたに》に落《お》ちる、死《し》んでしまう、中西屋《なかにしや》では僕《ぼく》が歸《かへ》らぬので大騷《おほさわ》ぎを初《はじ》める、樵夫《そま》を※[#「にんべん+就」、第3水準1−14−40]《やと》ふて僕《ぼく》を索《さが》す、此《この》暗《くら》い溪底《たにそこ》に僕《ぼく》の死體《したい》が横《よこたは》つて居《ゐ》る、東京《とうきやう》へ電報《でんぱう》を打《う》つ、君《きみ》か淡路君《あはぢくん》か飛《と》んで來《く》る、そして僕《ぼく》は燒《や》かれてしまう。天地間《てんちかん》最早《もはや》小山某《こやまなにがし》といふ畫《ゑ》かきの書
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