十三|日《にち》の夜《よ》、僕《ぼく》は獨《ひと》り机《つくゑ》に倚掛《よりかゝ》つてぼんやり[#「ぼんやり」に傍点]考《かんが》へて居《ゐ》た。十|時《じ》を過《す》ぎ家《いへ》の者《もの》は寢《ね》てしまひ、外《そと》は雨《あめ》がしと/\降《ふ》つて居《ゐ》る。親《おや》も兄弟《きやうだい》もない僕《ぼく》の身《み》には、こんな晩《ばん》は頗《すこぶ》る感心《かんしん》しないので、おまけに下宿住《げしゆくずまひ》、所謂《いはゆ》る半夜燈前十年事[#「半夜燈前十年事」に白丸傍点]、一時和雨到心頭[#「一時和雨到心頭」に白丸傍点]といふ一|件《けん》だから堪忍《たまつ》たものでない、まづ僕《ぼく》は泣《な》きだしさうな顏《かほ》をして凝然《じつ》と洋燈《ランプ》の傘《かさ》を見《み》つめて居《ゐ》たと想像《さう/″\》し給《たま》へ。
 此時《このとき》フと思《おも》ひ出《だ》したのはお絹《きぬ》のことである、お絹《きぬ》、お絹《きぬ》、君《きみ》は未《ま》だ此名《このな》にはお知己《ちかづき》でないだらう。君《きみ》ばかりでない、僕《ぼく》の朋友《ほういう》の中《うち》、何人《なん
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