を》るのである、これを幸《さいはひ》であつたと知[#「知」に丸傍点]ることは今後《こんご》のことであらう。しかし將來《このさき》これを幸《さいはひ》であつた[#「あつた」に丸傍点]と知《し》る時《とき》と雖《いへど》も、たしかに不幸《ふかう》である[#「ある」に丸傍点]と感《かん》ずるに違《ちが》いない。僕《ぼく》は知《し》らないで宜《よ》い、唯《た》だ感《かん》じたくないものだ。
『こゝに一人《ひとり》の少女《せうぢよ》あり。』小説《せうせつ》は何時《いつ》でもこんな風《ふう》に初《はじ》まるもので、批評家《ひゝやうか》は戀《こひ》の小説《せうせつ》にも飽《あ》き/\したとの御注文《ごちゆうもん》、然《しか》し年若《としわか》いお互《たがひ》の身《み》に取《と》つては、事《こと》の實際《じつさい》が矢張《やは》りこんな風《ふう》に初《はじま》るのだから致《いた》し方《かた》がない。僕《ぼく》は批評家《ひゝやうか》の御注文《ごちゆうもん》に應《おう》ずべく神樣《かみさま》が僕《ぼく》及《およ》び人類《じんるゐ》を造《つく》つて呉《く》れなかつたことを感謝《かんしや》する。
 去《さる》
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