ぱ》を吹《ふ》いて進《すゝ》んだ。
 愈※[#二の字点、1−2−22]《いよ/\》平地《へいち》を離《はな》れて山路《やまぢ》にかゝると、これからが初《はじ》まりと言《い》つた調子《てうし》で張飛巡査《ちやうひじゆんさ》は何處《どこ》からか煙管《きせる》と煙草入《たばこいれ》を出《だ》したがマツチがない。關羽《くわんう》も持《もつ》て居《ゐ》ない。これを見《み》た義母《おつかさん》は徐《おもむろ》に袖《たもと》から取出《とりだ》して
『どうかお使《つか》ひ下《くだ》さいまし。』
と丁寧《ていねい》に言《い》つた。
『これは/\。如何《どう》もマツチを忘《わす》れたといふやつは始末《しまつ》にいかんもので。』
と巡査《じゆんさ》は一《いつ》ぷく點火《つけ》てマツチを義母《おつかさん》に返《かへ》すと義母《おつかさん》は生眞面目《きまじめ》な顏《かほ》をして、それを受《うけ》取つて自身《じしん》も煙草《たばこ》を喫《す》いはじめた。別《べつ》に海洋《かいやう》の絶景《ぜつけい》を眺《なが》めやうともせられない。
 どんより曇《くも》つて折《を》り/\小雨《こさめ》さへ降《ふ》る天氣《てんき
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