、其《その》一人《ひとり》が窓《まど》から渡《わた》した包《つゝみ》を大事《だいじ》さうに受取《うけと》つた。其中《そのなか》には空虚《からつぽ》の折箱《をり》も三ツ入《はひ》つて居《ゐ》るのである。
 汽車《きしや》が大磯《おほいそ》を出《で》ると直《す》ぐ(吾等《われら》二人《ふたり》ぎりになつたので)
『義母《おつかさん》今《いま》の連中《れんちゆふ》は何者《なにもの》でしよう。』
『今《いま》のツて何《な》に?』
『今《いま》大磯《おほいそ》へ下《お》りた二人《ふたり》です。』
『さうねえ』
『必定《きつと》金貸《かねかし》か何《なん》かですよ。』
『さうですかね』
『でなくても左樣《さう》見《み》えますね』
『婆樣《ばあさん》は上方者《かみがたもの》ですよ、ツルリン[#「ツルリン」に傍点]とした顏《かほ》の何處《どつか》に「間拔《まぬけ》の狡猾《かうくわつ》」とでも言《い》つたやうな所《ところ》があつて、ペチヤクリ/\老爺《ぢいさん》の氣嫌《きげん》を取《とつ》て居《ゐ》ましたね。』
『さうでしたか』
『妾《めかけ》の古手《ふるて》かも知《し》れない。』
『貴君《あなた》も隨
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