分《ずゐぶん》口《くち》が惡《わる》いね』とか何《なん》とか義母《おつかさん》が言《い》つて呉《く》れると、益々《ます/\》惡口雜言《あくこうざふごん》の眞價《しんか》を發揮《はつき》するのだけれども、自分《じぶん》のは合憎《あいに》く甘《うま》い言《こと》をトン/\拍子《びやうし》で言《い》ひ合《あ》ふやうな對手《あひて》でないから、間《ま》の拔《ぬ》けるのも是非《ぜひ》がない。

        五

 箱根《はこね》、伊豆《いづ》の方面《はうめん》へ旅行《りよかう》する者《もの》は國府津《こふづ》まで來《く》ると最早《もはや》目的地《もくてきち》の傍《そば》まで着《つ》ゐた氣《き》がして心《こゝろ》も勇《いさ》むのが常《つね》であるが、自分等《じぶんら》二人《ふたり》は全然《まるで》そんな樣子《やうす》もなかつた。不好《いや》な處《ところ》へいや/\ながら出《で》かけて行《ゆ》くのかと怪《あやし》まるゝばかり不承無承《ふしようぶしよう》にプラツトホームを出《で》て、紅帽《あかばう》に案内《あんない》されて兔《と》も角《かく》も茶屋《ちやゝ》に入《はひ》つた。義母《おつかさん》は兔
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