》の何時《なんじ》。半時間《はんじかん》以上《いじやう》待《ま》たねば人車《じんしや》が出《で》ないと聞《き》いて茶屋《ちやゝ》へ上《あが》り今度《こんど》は大《おほ》ぴらで一|本《ぽん》命《めい》じて空腹《くうふく》へ刺身《さしみ》を少《すこし》ばかり入《い》れて見《み》たが、惡酒《わるざけ》なるが故《ゆゑ》のみならず元來《ぐわんらい》八|度《ど》以上《いじやう》の熱《ねつ》ある病人《びやうにん》、甘味《うま》からう筈《はず》がない。悉《こと/″\》くやめてごろり轉《ころ》がるとがつかり[#「がつかり」に傍点]して身體《からだ》が解《と》けるやうな氣《き》がした。旅行《りよかう》して旅宿《やど》に着《つ》いて此《この》がつかり[#「がつかり」に傍点]する味《あぢ》は又《また》特別《とくべつ》なもので、「疲勞《ひらう》の美味《びみ》」とでも言《い》はうか、然《しか》し自分《じぶん》の場合《ばあひ》はそんなどころではなく病《やまひ》が手傳《てつだ》つて居《ゐ》るのだから鼻《はな》から出《で》る息《いき》の熱《ねつ》を今更《いまさら》の如《ごと》く感《かん》じ、最早《もは》や身動《みうご》きするのもいやになつた。
しかし時間《じかん》が來《く》れば動《うご》かぬわけにいかない只《た》だ人車鐵道《じんしやてつだう》さへ終《をは》れば最早《もう》着《つ》ゐたも同樣《どうやう》と其《それ》を力《ちから》に箱《はこ》に入《はひ》ると中等《ちゆうとう》は我等《われら》二人《ふたり》ぎり廣《ひろ》いのは難有《ありがた》いが二|時間半《じかんはん》を無言《むごん》の行《ぎやう》は恐《おそ》れ入《い》ると思《おも》つて居《ゐ》ると、巡査《じゆんさ》が二人《ふたり》入《はひ》つて來《き》た。
一人《ひとり》は張飛《ちやうひ》の痩《やせ》て弱《よわ》くなつたやうな中老《ちゆうらう》の人物《じんぶつ》。一人《ひとり》は關羽《くわんう》が鬚髯《ひげ》を剃《そ》り落《おと》して退隱《たいゝん》したやうな中老《ちゆうらう》以上《いじやう》の人物《じんぶつ》。
※[#「月+叟」、第4水準2−85−45]《や》せた張飛《ちやうひ》は眞鶴《まなづる》駐在所《ちゆうざいしよ》に勤務《きんむ》すること既《すで》に七八|年《ねん》、齋藤巡査《さいとうじゆんさ》と稱《しよう》し、退隱《たいゝん》の關羽《く
前へ
次へ
全18ページ中10ページ目
小説の先頭へ
文字数選び直し
国木田 独歩 の一覧に戻る
作家の選択に戻る
◆作家・作品検索◆
トップページ
登録
ご利用方法
ログイン
携帯用掲示板レンタル
携帯キャッシング