容色《きりょう》も悪くはなし年だって私と同《おんな》じなら未だいくらだって嫁にいかれるのに、ああやって一生懸命に奉公しているんだからね。全く普通《なみ》の女《もの》にゃ真似《まね》が出来ないよ。それに恐しい正直者《しょうじきもん》だから大庭|様《さん》でも彼女《あれ》に任かして置きゃ間違《まちがえ》はないサ……」
こんな事を思いながらお源は洋燈《ランプ》を点火《つけ》て、火鉢《ひばち》に炭を注ごうとして炭が一片《ひときれ》もないのに気が着き、舌鼓《したうち》をして古ぼけた薬鑵《やかん》に手を触《さわ》ってみたが湯は冷《さ》めていないので安心して「お湯の熱い中《うち》に早く帰って来れば可い。然し今日もしか前借して来てくれないと今夜も明日も火なしだ。火ぐらい木葉《こっぱ》を拾って来ても間に合うが、明日《あした》食うお米が有りや仕ない」と今度は舌鼓の代《かわり》に力のない嘆息《ためいき》を洩《もら》した。頭髪《かみ》を乱して、血《ち》の色《け》のない顔をして、薄暗い洋燈の陰にしょんぼり坐っているこの時のお源の姿は随分|憐《あわれ》な様であった。
其所《そこ》へのっそり[#「のっそり」に傍
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