竹の木戸
国木田独歩

−−
【テキスト中に現れる記号について】

《》:ルビ
(例)大庭《おおば》

|:ルビの付く文字列の始まりを特定する記号
(例)河井|様《さん》

[#]:入力者注 主に外字の説明や、傍点の位置の指定
(例)むっと[#「むっと」に傍点]したが、
−−

        上

 大庭《おおば》真蔵という会社員は東京郊外に住んで京橋区辺の事務所に通っていたが、電車の停留所まで半里《はんみち》以上もあるのを、毎朝欠かさずテクテク歩いて運動にはちょうど可《い》いと言っていた。温厚《おとな》しい性質だから会社でも受が可《よ》かった。
 家族は六十七八になる極く丈夫な老母、二十九になる細君、細君の妹のお清《きよ》、七歳《ななつ》になる娘の礼ちゃんこれに五六年前から居るお徳という女中、以上五人に主人《あるじ》の真蔵を加えて都合六人であった。
 細君は病身であるから余り家事に関係しない。台所元の事は重《おも》にお清とお徳が行《や》っていて、それを小まめな老母が手伝ていたのである。別《わ》けても女中のお徳は年こそ未《ま》だ二十三であるが私はお宅《うち》に一生奉公をしますという意
次へ
全33ページ中1ページ目


小説の先頭へ
文字数選び直し
国木田 独歩 の一覧に戻る
作家の選択に戻る
◆作家・作品検索◆
トップページ 登録 ご利用方法 ログイン
携帯用掲示板レンタル
携帯キャッシング