気込で権力が仲々強い、老母すら時々この女中の言うことを聞かなければならぬ事もあった。我儘《わがまま》過るとお清から苦情の出る場合もあったが、何しろお徳はお家大事と一生懸命なのだから結極《つまり》はお徳の勝利《かち》に帰するのであった。
 生垣《いけがき》一つ隔てて物置同然の小屋があった。それに植木屋夫婦が暮している。亭主が二十七八で、女房はお徳と同年輩位、そしてこの隣交際《となりづきあい》の女性《にょしょう》二人は互に負けず劣らず喋舌《しゃべ》り合っていた。
 初め植木屋夫婦が引越して来た時、井戸がないので何卒《どう》か水を汲ましてくれと大庭家に依頼《たの》みに来た。大庭の家ではそれは道理《もっとも》なことだと承諾《ゆる》してやった。それからかれこれ二月ばかり経《た》つと、今度は生垣《いけがき》を三尺ばかり開放《あけ》さしてくれろ、そうすれば一々御門へ迂廻《まわ》らんでも済むからと頼みに来た。これには大庭家でも大分苦情があった、殊《こと》にお徳は盗棒《どろぼう》の入口を造《こしら》えるようなものだと主張した。が、しかし主人《あるじ》真蔵の平常《かねて》の優しい心から遂にこれを許すことに
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