仕ない。それでも三銭五銭と計量炭《はかりずみ》を毎日のように買うんだからね、全くやりきれや仕ない」
「全く骨だね」とお徳は優しく言った。
以上炭の噂《うわさ》まで来ると二人は最初の木戸の事は最早《もう》口に出さないで何時《いつ》しか元のお徳お源に立還《たちかえ》りぺちゃくちゃ[#「ぺちゃくちゃ」に傍点]と仲善く喋舌《しゃべ》り合っていたところは埒《らち》も無い。
十一月の末だから日は短い盛《さかり》で、主人真蔵が会社から帰ったのは最早暮れがかりであった。木戸が出来たと聞いて洋服のまま下駄を突掛け勝手元の庭へ廻わり、暫時《しばらく》は木戸を見てただ微笑していたが、お徳が傍《そば》から
「旦那様《だんなさま》大変な木戸で、御座いましょう」と言ったので
「これは植木屋さんが作《こし》らえたのか」
「そうで御座います」
「随分妙な木戸だが、しかし植木屋さんにしちゃア良く出来てる」と手を掛けて揺振《ゆすぶ》ってみて
「案外丈夫そうだ。まアこれでも可《い》い、無いよりか増《まし》だろう。その内大工を頼んで本当に作らすことに仕よう」と言って「竹で作《こしら》えても木戸は木戸だ、ハ、ハハハハ」と笑
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