でも戸外《そと》に放棄《うっちゃ》って置かんようになさいよ」
「私《あたし》はまアそんなことは仕ない積りだが、それでも、ツイ忘れることが有るからね、お前さんも屑屋なんかに気を附けておくれよ。木戸から入るにゃ是非お前さん宅《うち》の前を通るのだからね」
「ええ気を附けるともね。盗《と》られる日にゃ薪《まき》一本だって炭|一片《ひときれ》だって馬鹿々々しいからね」
「そうだとも。炭一片とお言いだけれど、どうだろうこの頃の炭の高価《たか》いことは。一俵八十五銭の佐倉《さくら》があれだよ」とお徳は井戸から台所口へ続く軒下に並べてある炭俵の一《ひとつ》を指して、「幾干《いくら》入《はいっ》てるものかね。ほんとに一片何銭に当《つ》くだろう。まるでお銭《かね》を涼炉《しちりん》で燃しているようなものサ。土竈《どがま》だって堅炭《かたずみ》だって悉《みん》な去年の倍と言っても可い位だからね」とお徳は嘆息《ためいき》まじりに「真実《ほんと》にやりきれや仕ない」
「それに御宅は御人数《ごにんず》も多いんだから入用《いる》ことも入用サね。私《あたし》のとこなんか二人きりだから幾干《いくら》も入用《いりゃ》ア
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