ばかりだから私さえ開閉《あけたて》に気を附けりゃア大丈夫だよ。どうせ本式の盗棒なら垣根だって御門だって越すから木戸なんか何にもなりゃア仕ないからね」
 と半分折れて出たのでお徳
「そう言えばそうさ。だからお前さんさえ開閉《あけたて》を厳重に仕ておくれなら先《ま》ア安心だが、お前さんも知ってるだろう此里《ここ》はコソコソ泥棒や屑屋《くずや》の悪い奴《やつ》が漂行《うろうろ》するから油断も間際《すき》もなりや仕ない。そら近頃《このごろ》出来たパン屋の隣に河井|様《さん》て軍人さんがあるだろう。彼家《あそこ》じゃア二三日前に買立の銅《あか》の大きな金盥《かなだらい》をちょろりと盗《や》られたそうだからねえ」
「まアどうして」とお源は水を汲む手を一寸《ちょっ》と休めて振り向いた。
「井戸辺《いどばた》に出ていたのを、女中が屋後《うら》に干物に往《い》ったぽっちり[#「ぽっちり」に傍点]の間《ま》に盗《や》られたのだとサ。矢張《やっぱり》木戸が少しばかし開《あ》いていたのだとサ」
「まア、真実《ほんと》に油断がならないね。大丈夫私は気を附けるが、お徳さんも盗《や》られそうなものは少時《ちょっと》
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