彼処を開けさすのは厭《いや》じゃッたが開けて了った今急にどうもならん。今急に彼処を塞《ふさ》げば角が立て面白くない。植木屋さんも何時《いつ》まであんな物置小屋《ものおきごや》みたような所にも居られんで移転《ひっこす》なりどうなりするだろう。そしたら彼所《あそこ》を塞ぐことにして今は唯《た》だ何にも言わんで知らん顔を仕てる、お徳も決してお源さんに炭の話など仕ちゃなりませんぞ。現に盗んだところを見たのではなし又高が少しばかしの炭を盗《と》られたからってそれを荒立てて彼人者《あんなもの》だちに怨恨《うらま》れたら猶《な》お損になりますぞ。真実《ほんと》に」と老母は老母だけの心配を諄々《じゅんじゅん》と説《とい》た。
「真実《ほんと》にそうよ。お徳はどうかすると譏謔《あてこすり》を言い兼ないがお源さんにそんなことでもすると大変よ、反対《あべこべ》に物言《ものいい》を附けられてどんな目に遇《あ》うかも知れんよ、私はあの亭主の磯が気味が悪くって成らんのよ。変妙来《へんみょうらい》な男ねえ。あんな奴に限って向う不見《みず》に人に喰《く》ってかかるよ」とお清も老母と同じ心配。老母も磯吉のことは口には出
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