ることにしたら。そしてお徳の所有品《もの》は中の部屋の戸棚《とだな》を整理《かたづ》けて入れたら」と細君が一案を出した。
「それじゃアそう致しましょう」とお徳は直ぐ賛成した。
「お徳には少し気の毒だけれど」と細君は附加《つけた》した。
「否《いいえ》、私《わたくし》は『中の部屋』のお戸棚《とだな》へ衣類《きもの》を入れさして頂ければ尚《な》お結構で御座《ござい》ます」
「それじゃ先《ま》あそう決定《きめ》るとして、全体物置を早く作れというのに真蔵がぐずぐずしているからこういうことになるのです。物置さえあれば何のこともないのに」と老母が漸《やっ》と口を利《きい》たと思ったら物置の愚痴。真蔵は頭を掻《か》いて笑った。
「否《いいえ》、こういうことになったのも、竹の木戸のお蔭で御座いますよ、ですから私は彼処《あそこ》を開けさすのは泥棒の入口を作《こしら》えるようなものだと申したので御座います。今となれゃ泥棒が泥棒の出入口《ではいりぐち》を作《こしら》えたようなものだ」とお徳が思わず地声の高い調子で言ったので老母は急に
「静に、静に、そんな大きな声をして聴《きか》れたらどうします。私《わし》も
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