朋友《ほういう》の間に起《おこ》り、且《か》つ其《その》純潔すら疑《うた》がはれたので遂《つひ》に何時《いつ》とはなしに銀之助の方から別れて了《しま》つたのであつた。別れて今の妻《さい》と結婚して後《のち》は静《しづ》の成行《なりゆき》に就《つ》き銀之助は全く知らなかつた。
ところが五年目に突然|此《この》手紙、何事かと驚いて読み下《くだ》すと其《その》意味は――お別れしてから種々の運命《め》に遇《あつ》た末《すゑ》今は或《ある》男と夫婦同様になつて居る、然《しか》るに貴様《あなたさま》との関係と同じく矢張《やはり》男の家で結婚を許さない、その為《た》め男は遂《つひ》に家出して今は愛宕町《あたごちやう》何丁目何番地|小川方《をがはかた》に二人して日蔭者《ひかげもの》の生活《くらし》をして居る。窮迫《きゆうはく》に窮迫《きゆうはく》を重ね、ちび/\した借金も積《つも》りて今は何としても立行《たちゆ》かぬ様《さま》となつた。そこで如何《いか》なることがあつても貴様《あなたさま》にはと誓つて居たけれど其《その》誓《ちかひ》も捨て義理も忘れてお願ひ申すのである、何卒《どうか》二十円だけ用意し
前へ
次へ
全14ページ中6ページ目
小説の先頭へ
文字数選び直し
国木田 独歩 の一覧に戻る
作家の選択に戻る
◆作家・作品検索◆
トップページ
登録
ご利用方法
ログイン
携帯用掲示板レンタル
携帯キャッシング