ち》貴君《あなた》に差上《さしあ》げることに仕《し》たいものぢや、それとも今《いま》これを此處に留《と》め置《おけ》ば貴君《あなた》の三年の壽命《いのち》を縮《ちゞめ》るが可《よい》か、それでも今|直《す》ぐに欲《ほし》う御座るかな。』
 雲飛《うんぴ》は三年の壽命《じゆみやう》位《ぐらゐ》は何《なん》でもないと答《こた》へたので老叟、二本の指《ゆび》で一の竅《あな》に觸《ふれ》たと思ふと石は恰《あだか》も泥《どろ》のやうになり、手に隨《したが》つて閉《と》ぢ、遂《つひ》に三個《みつゝ》の竅《あな》を閉《ふさ》いで了《しま》つて、さて言ふには、『これで可《よ》し、殘《のこり》の竅《あな》の數《かず》が貴君《あなた》の壽命だ、最早《もう》これでお暇《いとま》と致《いた》さう』と飄然《へうぜん》老叟《らうそう》は立去《たちさつ》て了《しま》つた。留《と》めて留《と》まらず、姓名《な》を聞《きい》ても言《いは》ずに。
 其後石は安然《あんぜん》[#「然」に「ママ」の注記]に雲飛の内室《ないしつ》に祕藏《ひざう》されて其|清秀《せいしう》の態《たい》を變《かへ》ず、靈妙《れいめう》の氣《き》を
前へ 次へ
全17ページ中10ページ目


小説の先頭へ
文字数選び直し
国木田 独歩 の一覧に戻る
作家の選択に戻る
◆作家・作品検索◆
トップページ 登録 ご利用方法 ログイン
携帯用掲示板レンタル
携帯キャッシング