失《うしな》はずして幾年《いくねん》か過《すぎ》た。
或年|雲飛《うんぴ》用事《ようじ》ありて外出したひまに、小偸人《こぬすびと》が入《はひ》つて石を竊《ぬす》んで了《しま》つた。雲飛は所謂《いはゆ》る掌中《しやうちゆう》の珠《たま》を奪《うば》はれ殆ど死《し》なうとまでした、諸所《しよ/\》に人を出《だ》して搜《さが》さしたが踪跡《ゆきがた》が全《まる》で知《しれ》ない、其中二三年|經《た》ち或日|途中《とちゆう》でふと盆石《ぼんせき》を賣て居る者に出遇《であつ》た。近《ちかづ》いて視《み》ると例《れい》の石を持《もつ》て居るので大に驚《おどろ》き其|男《をとこ》を曳《ひき》ずつて役場《やくば》に出て盜難《たうなん》の次第《しだい》を訴《うつた》へた。竅《あな》の數《かず》と孔中《こうちゆう》の堂宇《だうゝ》の二|證據《しようこ》で、石は雲飛《うんぴ》のものといふに定《きま》り、石賣は或人より二十兩出して買《かつ》た品《しな》といふことも判然《はんぜん》して無罪《むざい》となり、兎《と》も角《かく》も石は首尾《しゆび》よく雲飛の手に還《かへ》つた。
今度《こんど》は石を錦《にしき
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