》に裹《つゝ》んで藏《くら》に納《をさ》め容易《ようい》には外《そと》に出さず、時々出して賞《め》で樂《たのし》む時は先づ香《かう》を燒《たい》て室《しつ》を清《きよ》める程《ほど》にして居た。ところが權官《けんくわん》に某といふ無法者《むはふもの》が居て、雲飛の石のことを聞《き》き、是非《ぜひ》に百兩で買《か》ひたいものだと申込《まうしこ》んだ。何《なに》がさて萬金|尚《な》ほ易《かへ》じと愛惜《あいせき》して居る石のことゆゑ、雲飛は一言のもとに之を謝絶《しやぜつ》して了《しま》つた。某は心中|深《ふか》く立腹《りつぷく》して、他《ほか》の事にかこつけて雲飛を中傷《ちゆうしやう》し遂《つひ》に捕《とら》へて獄《ごく》に投《とう》じたそして人を以て竊《ひそか》に雲飛《うんぴ》の妻《つま》に、實《じつ》は石が慾《ほし》いばかりといふ内意《ないゝ》を傳《つた》へさした。雲飛の妻《つま》は早速《さつそく》子《こ》と相談《さうだん》し石を某《なにがし》權官《けんくわん》に獻《けん》じたところ、雲飛は間《ま》もなく獄《ごく》を出された。
 獄《ごく》から歸《かへ》つて見ると石がない、雲飛《うんぴ
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