》は妻を罵《のゝし》り子《こ》を毆《う》ち、怒《いかり》に怒《いか》り、狂《くる》ひに狂《くる》ひ、遂《つひ》に自殺《じさつ》しようとして何度《なんど》も妻子《さいし》に發見《はつけん》されては自殺することも出來《でき》ず、懊惱《あうなう》煩悶《はんもん》して居ると、一夜、夢《ゆめ》に一個《ひとり》の風采《ふうさい》堂々《だう/\》たる丈夫《ますらを》が現《あらは》れて、自分は石清虚《せきせいきよ》といふものである、決《けつ》して心配《しんぱい》なさるな、君と別《わか》れて居るのは一年|許《ばかり》のことで、明年八月二日、朝《あさ》早《はや》く海岱門《かいたいもん》に詣《まう》で見給《みたま》へ、二十錢の代價《だいか》で再《ふたゝ》び君《きみ》の傍《かたはら》に還《かへつ》て來ること受合《うけあひ》だと言ふ。其|言葉《ことば》の一々を雲飛は心に銘《めい》し、やゝ氣《き》を取直《とりなほ》して時節《じせつ》の來《く》るのを待《まつ》て居《ゐ》た。
 そこで彼《か》の權官《けんくわん》は首尾《しゆび》よく天下《てんか》の名石《めいせき》を奪《うば》ひ得《え》てこれを案頭《あんとう》に置《お
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