やぢ》が盜《ぬす》んだと急《きふ》に追《おつ》かけて行くと老人|悠々《いう/\》として歩《ある》いて居るので直《す》ぐ追着《おひつ》くことが出來た。其|袂《たもと》を捉《とら》へて『餘《あんま》りじやアありませんか、何卒《どうか》返却《かへ》して戴《いたゞ》きたいもんです』と泣聲《なきごゑ》になつて訴《うつた》へた。
『これは異《い》なことを言《い》はるゝものじや、あんな大《おほき》な石《いし》が如何《どう》して袂《たもと》へ入《はひ》る筈《はず》がない』と老人《ろうじん》に言はれて見ると、袖《そで》は輕《かる》く風《かぜ》に飄《ひるが》へり、手には一本の長《なが》い杖《つゑ》を持《もつ》ばかり、小石《こいし》一つ持て居ないのである。ここに於て雲飛《うんぴ》は初《はじめ》て此《この》老叟《らうそう》決《けつし》て唯物《たゞもの》でないと氣《き》が着《つ》き、無理《むり》やりに曳張《ひつぱつ》て家《うち》へ連《つ》れ歸《かへ》り、跪《ひざまづ》いて石《いし》を求《もと》めた。
 乃《そこ》で叟の言《い》ふには『如何《どう》です、石は矢張《やは》り貴君《あなた》の物かね、それとも拙者《せつ
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