》く知《しつ》て居るのじや、抑《そもそ》も此石には九十二の竅《あな》がある、其中の巨《おほき》な孔《あな》の中には五《いつゝ》の堂宇《だうゝ》がある、貴君《あなた》は之れを知つて居らるゝか』
言はれて雲飛《うんぴ》は仔細《しさい》に孔中《こうちゆう》を見《み》ると果して小さな堂宇《だうゝ》があつて、粟粒《あはつぶ》ほどの大さで、一寸《ちよつと》見《み》た位《くらゐ》では決《けつ》して氣《き》が附《つか》ぬほどのものである、又た孔竅《あな》の數《かず》を計算《けいさん》するとこれ亦た九十二ある。そこで内心《ないしん》非常《ひじやう》に驚《おどろ》いたけれど尚《なほ》も石を老叟《らうそう》に渡《わた》すことは惜《をし》いので色々《いろ/\》と言《い》ひ爭《あらそ》ふた。
老叟は笑《わら》つて『先《ま》づ左樣《さう》言《い》はるゝならそれでもよし、イザお暇《いとま》を仕《し》ましよう、大《おほき》にお邪魔《じやま》で御座《ござ》つた』と客間《きやくま》を出たので雲飛《うんぴ》も喜《よろこ》び門《もん》まで送《おく》り出て、内に還《かへ》つて見ると石《いし》が無い。こいつ彼《あ》の老爺《お
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